【取材協力】
春山貴志先生
(猫の病院シュシュ(東京都江戸川区)院長)
北海道大学獣医学部卒。動物に優しく、動物が本来持っている自然治癒力を高めていけるような治療をモットーに、飼い主と動物たちとの信頼関係作りに努めている。ISFM(国際猫医学会)所属。監修著書「もっと猫に言いたいたくさんのこと」(池田書店)。愛猫のフーコちゃんと。
猫に「健康診断」は、なぜ必要?
猫はギリギリまで不調に気づきにくい
一般に猫はがまん強く、痛みを訴えることもあまりしないので、飼い主さんがギリギリまで不調に気づきにくい傾向があります。そのため、健康診断を受けて状態を把握してあげることがとても大切です。若い猫でも年1回、高齢になれば半年に1回程度をめやすにしてください。猫は人の4~5倍の速度で年をとるので、年1回でも、人でいえば4年に1回でしかありません。
健康時の数値を把握しておけるのがメリット
定期的に健康診断を受けるメリットは、その猫の健康時の検査数値を把握しておけること。一般的な基準値は、健康そうな猫のデータを集め、そのうち上下の値を除いて、だいたいこれぐらいだろうという範囲を設定しているので、そこに当てはまらない猫もいます。健康時のデータを把握していて、例えば普段から肝臓の数値が高めだとわかっていれば、1回の検査で異常値が出たからと、余計な再検査をしなくてすみます。
検査時の条件によって数値は変わる
血液検査では、食事直後に測定すると、コレステロールや中性脂肪、血糖値なども高めに出ます。また採血時に興奮しているとグルコース値が上昇することもあります。とくに病院嫌いの猫の場合、適正な条件下で検査できるとは限らないので、数値の読み取りには、食後の経過時間や検査時の状態なども参考にする必要があります。
健康診断でよく見つかる「高齢猫の三大疾患」
慢性腎臓病
猫は、加齢とともに腎臓病が非常に増えるので、7歳以上の中・高齢猫に必ず受けてほしいのが「血液検査」と「尿検査」です。
腎機能が落ちてきて最初に現れる兆候が、おしっこが濃縮できなくなって薄くなること。飼い主さんはおしっこの色までなかなかチェックできないので、結局、尿検査で発見されることになります。しかし腎臓は異常が現れにくい臓器なので、尿検査で発見できるのは、腎機能の2/3以上が失われてから。さらに血液検査で異常値が出てくるのは、腎機能が3/4以上も失われてからです。それでも手遅れというわけではありません。きちんとケアをして、腎臓に負担をかけない生活をすれば、長く持たせていくことも可能です。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症も高齢猫に多い病気で、血液検査で甲状腺ホルモンの数値が高ければ、その疑いがあります。甲状腺ホルモンは通称、元気ホルモンと呼ばれ、体の代謝や活性を上げる働きがあります。最初のうちは、ごはんもたくさん食べ、お水もたくさん飲んで、一見、元気そうに見えるので、飼い主さんの発見が遅れがちです。
しかし、無理やり元気にさせられている状態なので、進行してくると、急激に元気がなくなり痩せてきます。そうなって初めて来院されるケースが多いです。元気そうに見えても、目がギラつく、夜鳴きをする、よく食べるのに痩せてくるなど、特有の症状もあるので、よく観察してください。
口内トラブル
歯科検診では、歯石の付着状況、口内炎や歯肉炎などの炎症の有無、舌の下に出来物ができていないかなどをチェックします。猫は口内を触られるのを嫌がることが多く、どうしても触らせてくれないときは麻酔が必要になることもあります。 口の中を見なくても気づける、口内トラブルの症状としては、まず口臭。食べるときに首を振ったりこぼしたりする、よだれが出る、口をクチャクチャする、口元をこすって前足が汚れているなど。痛みがあるとグルーミングもしなくなります。 歯周病の他に、口内炎が多いのも猫の特徴です。口内炎の原因は様々で、猫カリシウイルス、猫エイズ、猫白血病などのウイルス感染症によるものや、免疫が関わっていることも多いです。免疫が関与している場合は抜歯が有効で、歯を抜くことで6割ぐらいが好転します。また腎臓が悪くなると、尿毒症物質のせいで、口内や胃、腸管など消化管のどこかに潰瘍ができやすくなります。
これらの“三大疾患”以外にも、人と同様、高齢になると腫瘍なども増えてきます。ぜひ健康診断を習慣にしていただきたいですね。