【取材協力】
佐々木彩子先生(キュティア老犬クリニック獣医師) http://www.cutia.jp
シニア犬のロコモティブシンドロームの予防・改善・リハビリ、介護医療を専門とするクリニック。整体や漢方薬を治療に取り入れ、長く快適なシニア犬ライフを送るためのサポートを行う。「シニア犬の健康生活大百科 」(文化出版局MOOKシリーズ)、「犬もよろこぶシニア犬生活」(誠文堂新光社)を監修。
そもそもロコモって? その原因は?
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、骨・関節・筋肉などの運動器に何らかの障害があることの総称です。耳慣れない言葉かもしれませんが、症状自体は以前からあるものです。
3つの原因
主な原因の一つは老化。犬は加齢とともに体に様々な変化がおこります。よく見られるのが変形性脊椎症で、背骨の一部が変形してできた突起やブリッジが神経を圧迫し、痛みが出るものです。ひどくなると、おしっこが出せなくなったり、歩けなくなることもあります。また加齢とともに軟骨がすり減り、関節炎も起こしやすくなります。いずれも重症化しやすいのは中・大型犬ですが、年をとれば犬種を問わず発症する病気なので、小型犬も注意が必要です。
また、膝蓋骨脱臼や股関節形成不全など原因が先天性の場合は、若い頃から足がもつれたり、歩けなくなったりなどの影響が出ます。何より早めの対策が大事です。 その他、神経的な病気が原因のこともあります。
症状は「後ろ足」に出やすい
犬は7:3の割合で前に体重をかけているため、前足ばかりに意識が行きがちで、徐々に後ろ足の筋肉を使わなくなっていくため、後ろ足から弱るケースが多いんです。老化が原因の場合は症状がゆっくりと現れるので、気づかないことも。歩き方やしぐさなど日ごろから注意深く観察してみましょう。
ロコモ度チェックポイント!早期発見が決め手
体のゆがみや筋肉に凝り・関節の痛みがあると、特有のしぐさがサインとして出てきます。早めに気づくことで様々な対策ができるので、サインを見逃さないでください。
例えば、横座りは要注意!ゆがみが出てきているサインです。そのつど飼い主さんがきれいな姿勢に戻してあげましょう。ただし痛がる場合は無理せず、受診してください。
年をとってから急に攻撃的になる場合も注意が必要です。触られると痛くて、咬んだり怒ったりしている可能性があるからです。最初に咬んだときに何をしたかを思い出すと、痛みの場所がわかるかもしれません。
ロコモ予防対策!若いうちから取り組んで
ロコモは、負担の積み重ねが症状として出てきます。若くて元気な頃から気をつけたいことを挙げてみました。
滑りにくい床にする
ツルツルの床は関節をかばって筋肉にも負担がかかるので、床は滑りにくいものに。
小型犬でも朝晩のお散歩を
若い頃にたくさん歩いた犬ほど、運動をしなくなってからも歩ける期間が長い、筋力が残っているという実感があります。年をとってから筋肉を作るのは難しいので、動けるうちに鍛えておくことが重要。小型犬でも、できるだけ朝晩のお散歩を。とくに坂道はいい筋トレになるので、起伏のあるコースを選ぶとより効果的です。
大事をとりすぎない
触るとキャン!と鳴くくらいの痛みなら、以前は1週間は安静にしなければならないと言われていましたが、現在では2~3日の安静は必要ですが、その後は徐々に運動を始めた方が良いと言われています。1週間動かずにいると、筋肉が落ちて歩けなくなってしまうこともあるからです。手術が必要なほどの重症はともかく、少し痛そうというぐらいなら、運動をして筋肉を維持した方が関節に負担がかからず、より長く歩けます。
食事は台に乗せて
うつむいて食事をするなど同じ姿勢を続けていると、首が曲がったまま上がらなくなったり、足にも負担がかかります。食事は適度な高さの台に乗せてあげるといいでしょう。
太らせない
シニア期の入り口は太りやすいので、そのせいで歩けない犬も多いです。適切なダイエットをしても痩せない場合は、ホルモン異常など他の病気の可能性もあるので、検査をした方がいいかもしれません。
縦抱きをしない
縦抱きは背骨に負担がかかるので、犬種を問わず、背骨がなるべく地面と平行になるように抱くのが基本です。抱き上げるときはとくに気をつけて。ダックスなどの胴長犬種は、肩にもたれさせるような抱き方をすることが多く、背骨に間違った重力がかかり、椎間板ヘルニアの原因をつくっている可能性があります。
足腰が弱り始めたら・・・家庭でできる筋トレ・ストレッチ!
足腰が弱り始めた犬でもできる筋トレ・ストレッチ法をご紹介します。人用のヨガマットを敷いて行うと、滑らず踏ん張りがききます。ゆっくりと、少しずつ負荷をかけていくイメージで。ただし歩けない犬には無理をさせないでください。
当院では整体を行っているため、自宅でもやりたいという飼い主さんが多いのですが、筋肉自体をもむと筋繊維を壊してしまう可能性があるので、家庭では、やさしく筋肉をなでるような気持ちで、背中や首回りを軽くさすったりつまんだりするぐらいがいいと思います。愛犬が気持ちよさそうにしている様子を楽しみながら、ケアしてあげましょう。