【取材協力】
獣医師/どうぶつ行動クリニックFAU(ファウ) 尾形 庭子先生
引っ越しはペットにとってストレスのもと。
それを緩和するには、転居「前」と「後」のケアが大切
【犬編】移動に慣れていない子は、事前に練習を
犬の場合、日ごろから移動用ケージで遠出したり、外泊慣れしているかどうかによって、引っ越し対策も異なってきます。新居にも移動用ケージを使うことで、外泊と同じ感覚で受け入れられるでしょう。また、飼い主の存在、ケージなど、犬自身の周囲は一定なので、比較的早く順応するといえます。
反対に、引っ越し直後から飼い主さんが留守がちだと、不安で、さびしくて、鳴いてしまうことも少なくありません。犬にとって”引っ越し”なんて理解不可能なことですから当然といえますが、そんな状況を避けられないなら、念のため、ご近所にごあいさつして事情を理解してもらってください。とにかく、引っ越し後、数日は、できるだけ家族の誰かが愛犬と一緒に過ごすようにしてあげてください。また、近くをあちこち散歩に出かけて、周辺環境に早く慣れる工夫をしてあげることも大切です。
一方、外出慣れしていなかったり、留守番の苦手な犬の場合は、引っ越しの何カ月も前から、外出、外泊の練習や、留守番の練習をしてはいかがでしょうか。また、引っ越し後も数カ月ほどかけて、少しずつ留守番に慣らしていくことも必要です。
なお、すでに愛犬が分離不安(※)気味であったり、鳴けば飼い主さんに来てもらえるということを学習していたりすると、事態は複雑です。かかりつけの動物病院でよく相談されたほうがいいでしょうね。
また、環境の変化に弱い高齢の犬や、実家を離れてひとり暮らしを始めたり、結婚などで新しい家族が増えるなど、引っ越し以上の変化がある場合は、愛犬が新しい環境、新しい家族になじむまで、余裕をもって計画してください。
※分離不安:飼い主との密着度が高すぎ、その人と離れると犬が過剰な不安感を持つこと。
【猫編】時間をかけて新しい環境に慣らす
猫の場合、もし愛猫が引っ越しのドタバタや人の出入りに驚いてどこかへ逃げてしまったら大変なので、なじみの動物病院やペットショップなどに1日、2日預けておき、引っ越し後に引き取るのも1つの方法です。自宅に残す場合は、猫のよく使うスペースは、できるだけ引っ越し当日まで、そのまま確保してあげてください。
しかし、猫にとってさらに災難なのは、引っ越し後でしょう。新しい環境に移ると、猫は、たとえ飼い主さんがそばにいても、ナーバスです。
そこで、愛猫の部屋を決めたら、そこに食事と水とトイレの場所を確保し、ケージの扉を開いたまま、まずその部屋に慣れるまで何日か留めておきましょう。自分の部屋に慣れたら次の部屋、そこに慣れたら別の部屋と、少しずつ、猫が自分の興味で探検しながらなわばりを広げていくのを、辛抱強く待ってください。
新居への不安、なわばり確認のために、この時期の尿スプレーも珍しくありません。動物病院で入手できるフェロモン剤は尿スプレーを軽減し、猫が環境に慣れる助けになるでしょう。
それから、たとえ外出自由の愛猫の場合でも、引っ越し後しばらくは外出をストップしてください。見知らぬ環境に飛び出ると、帰り道がわからなくなったり、近所の野良猫や外猫に追いまわされて行方不明になったりすることもあります。また近年は、交通事故や感染症、近所迷惑などの心配もありますから、引っ越しを機に、室内飼いするのが賢明かもしれません。
(初出:「よみうりペット」2003年2月20日発行号)