【取材協力】
株式会社テレビ東京 「ペット大集合! ポチたま」(放送時間:金曜日夜7時~7時54分)
http://www.tv-tokyo.co.jp/pochitama/
ボールをお届け! ベースボールドッグ「エルフ」のお仕事に注目
エルフ、プロ野球「マスターズリーグ」始球式に登場
2007年11月14日午後、ベースボールドッグ「エルフ」はトレーナーの遠藤和博さんと一緒に、初めて東京ドームにやってきた。夕方6時30分試合開始の2007年プロ野球マスターズリーグ「東京ドリームスVS大阪ロマンズ」の始球式に参加するためである。
しばらく1塁側ベンチ裏の控え室で待機していたエルフは、東京ドリームスの練習が始まるのを待ちかねてグラウンドに登場。顔なじみの、元千葉ロッテの初芝選手を見つけるとうれしそうにしっぽを振って近づいていった。マスターズリーグは初登場なのにあちこちから声がかかる。土橋監督がひざをついて東京ドリームスの帽子をかぶせてくれる。プロ野球キャスターの佐々木信也さんが笑顔でエルフの頭をなで、この日先発の江夏コーチ兼任投手がベンチから身を乗り出して体をなでてくれた。
やがて大阪ロマンズの練習も終了。両軍選手がベンチ前に整列して国歌斉唱ののち、東京ドリームスの選手たちが守備位置へ。マウンドに立つ江夏投手のそばに、始球式を務める作家の逢坂剛さんが現れた。1塁ベンチ前にスタンバイしたエルフは、遠藤トレーナーの指示でボールの入った特製グラブ型バスケットをくわえてゆっくりとマウンドへ。逢坂さんの脇に座ってボールを取ってもらい、満足げに遠藤トレーナーのもとに戻ってきた。
「東京ドームは初めてなので、ちょっと心配したんですが、エルフは自信を持って役目を果たしてくれました」と、ほっとした表情で遠藤トレーナーはつぶやいた。
黒ラブ「ダイアン」と旅犬「まさお君」の娘として誕生
エルフが一人前の「ベースボールドッグ」になるまでに、実は生前からの、親子2代にわたる物語がある。
千葉県松戸市に暮らす外谷さん一家に2002年6月、待望の子犬、黒ラブの「ダイアン」が加わった。彼女は元気いっぱいに成長し、やがて2歳半ばの娘盛りを迎えた。以前からダイアンの赤ちゃんがほしいと言っていた外谷家の娘さん(当時小学生)が、テレビ東京の人気番組「ペット大集合! ポチたま」の人気者・黄ラブの「旅犬まさお君」が花嫁を募集しているのを知り、応募はがきを出した。
まさかと思っているうちにダイアンは書類選考をパスして面接選考会へ。まさお君との相性が良かったためか、花嫁に選ばれた。そうして2005年春に”結婚”。家族を始め番組スタッフが気遣う中、同年6月12日未明、ダイアンは難産の末、7頭の元気な子犬を産んだ。うち5頭は各地の視聴者家族に引き取られ、末息子「だいすけ君」は父まさお君を継いで2代目旅犬に。一方、自宅に残った愛娘エルフは母ダイアンと外谷家皆の愛情を一身に受けてすくすく育っていった。「エルフは赤ちゃんの時から自立していて、すごくおてんばで」と、育ての親の外谷幸子さんは言う。
2005年初冬、生後半年前後のエルフに大きな転機がやってきた。その年、日本一に輝いた千葉ロッテマリーンズのベースボールドッグとしてデビューすることになったのである。エルフの応援に励まされ、少年野球チーム”奇跡”の優勝その後訓練を受けたエルフは2006年3月30日、千葉マリンスタジアムでの開幕戦始球式でデビュー。しかし、大歓声の公式戦に若いエルフは浮足だってグラウンドを駆け回り、役目を果たせなかった。「出るたびに、また失敗するかと思うと胃が痛くなって。でもできた時は、子どもが受験に受かった時よりもうれしくて(笑)」と、幸子さんはデビュー当時を振り返る。
結局、失敗が目立ったエルフは2軍で調整。新たに柏市在住のドッグトレーナー遠藤さんが訓練を担当した。遠藤さんは母犬ダイアンを訓練したことがあり、旧知の間柄。エルフと確かな信頼関係を築いて訓練をやり直し、見事、エルフは1軍復帰を成し遂げた。エルフは日ごとに自信をつけ、成功すると「帰ってきたぞ」というように興奮して帰宅。出迎えたダイアンと家中走り回るとか。
2007年春から、エルフは「野球を頑張っている人を応援に行きます!」を合言葉に、元五輪チームを率いた宇津木監督が指導する女子ソフトボールチーム「ルネサス高崎」や、欽ちゃん球団こと萩本欽一さん率いる「茨城ゴールデンゴールズ」の試合に参加するなど、各地で懸命にプレーする選手やチームを励まし始めた。そんな中、茨城県の少年野球チームのキャプテンから、テレビ東京にエルフの応援を依頼する便りが届いた。同チームはずっと負け続けで、勝ったことがない。「エルフが応援に来てくれたら、チームの皆も頑張ると思う」という内容だった。
そこでエルフは合宿にも参加。地域の少年野球大会当日、エルフの応援に勇気づけられたチームメートは、1回戦、2回戦と勝ち続け、決勝戦でも強敵に圧勝。試合後、わんわん泣きながらエルフの周りに集まった。
「あの時、遠藤さんも泣いておられました。僕は、番組放送中、出演者の方々が泣いておられるのを見て、涙が出てきました」と「ポチたま」の取材ディレクター・根本竜一さんは言い、「僕もまさか優勝までするとは思っていなかったんですが、人は、何かを信じて、きっかけさえあれば、すごいことができるんですね」と瞳を輝かせた。
(初出:「よみうりペット」2007年12月20日発行号)