猫のウイルス感染症はワクチンで予防できるもの、そうでないものがあります。
猫のウイルス感染症には、予防や治療の難しい、命にかかわるものが少なくありません。そのなかで代表的なものが、一般に「猫エイズ」といわれる猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)や、猫伝染性腹膜炎(FIP)、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)です。
ワクチン接種により予防できるもの | 猫風邪(猫カゼ:猫ウイルス性呼吸器感染症)、猫白血病(FeLV)、猫伝染性腸炎(猫汎白血球減少症・猫パルボウイルス感染症:FPV)、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症:FIV) |
ワクチンがまだ開発されていないもの | 猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP) |
猫エイズウイルス(猫免疫不全ウイルス:FIV)は、感染猫の唾液などにひそむウイルスが、未感染猫の傷口などから体内に入って感染します。比較的長い潜伏期間(約4~5年、子猫の場合は5~6年)のあと、発症すると体の免疫機能に打撃を与え、さまざまな細菌感染やがん(悪性腫瘍)を併発し、ついには「宿主」の命をうばいます。もっとも、猫エイズウイルス(猫免疫不全ウイルス:FIV)は感染力が弱いため、陽性の猫との濃厚な接触がない限り、感染する可能性はありません。
猫白血病ウイルス(FeLV)は、感染猫の唾液などにひそみ、母猫と子猫のなめあい、食器の共用、猫どうしのケンカなどによってほかの猫に感染します。主に骨髄に入って白血球や赤血球の造血作用に悪影響をおよぼし、免疫力の低下や貧血などで命をむしばんでいきます。特に生後間もない猫に感染すれば、ほとんど助かりません。さいわいにも近年ワクチンが開発され、ワクチンを接種する猫たちが増え始めています。しかし、ワクチン自体の知名度がまだ低いことや、3種混合ワクチンを接種するケースが多いことなどから、まだ、猫白血病(FeLV)の発症数が減るまでには至っていません。
猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)は、通常、腸炎などを起こすコロナウイルスの一種が感染猫から未感染の猫に感染します。その後、感染猫の体内で突然変異を起こして猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)となり、お腹や胸の血管で激烈な炎症を起こしたり(ウェットタイプ)、脳神経細胞や肝臓、腎臓などに炎症を起こして(ドライタイプ)命をうばいます。現在、ワクチンは開発中で有効な予防手段はありません。
これらの予防や治療が困難な感染症は、感染するとウイルスを根治する方法がなく、症状の進行を抑えるための対症療法が中心になります。例えば猫エイズ(猫免疫不全ウイルス:FIV)の場合は、エイズ発症前の無症状キャリア期であれば、口内炎や慢性皮膚炎などのエイズ関連症候群の諸症状を抑えるように努めます。猫白血病ウイルス(FeLV)の場合は、感染1ヵ月前後に発症する急性期であれば、猫の免疫力を高めて自然治癒を目指します。また、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)では、インターフェロンやステロイド剤を投与して、症状の緩和・延命を図ります。
ウイルス感染症から愛猫を守るために、避妊・去勢と室内飼育の徹底を。
有効なワクチンのない猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)や、ワクチンの普及がまだ進んでいない猫白血病(FeLV)や猫エイズウイルス(猫免疫不全ウイルス:FIV)から飼い猫を守るには、室内飼育が予防対策の基本となります。といっても、マンションなどの集合住宅ならともかく、戸建て住宅で庭があるような場合、飼い猫の外出を完全に防止するのは困難です。そのため、早めに避妊・去勢手術をおこなって、猫の外出意欲を低下させることが有効となります。避妊・去勢済みであれば、万一、外出してしまった場合でも、野良猫とのケンカや交尾などによる感染機会を減らすことにつながります。
有効なワクチンがある感染症でも、ワクチン接種さえすれば安心というわけではありません。予防ワクチンは、それによって特定の病原性ウイルスに対する体の抵抗力、つまり抗体価を上げて、体内に入ったウイルスをやっつけようというもの。だから、接種回数や個体差などによっては、たとえワクチンを接種していても、抗体価が予防に必要なほど上がらず、悪性ウイルスに感染してしまうことも考えられます。
猫の代表的なワクチンである3種混合ワクチンは、猫風邪の原因となる、「ネコカリシウイルス」と「ネコヘルペスウイルス」、「猫パルボウイルス感染症」の3つのウイルス感染を予防します。費用は動物病院によって異なりますが、3種混合ワクチンで一回6000円前後が一般的な値段のようです。しかし、先述のように、ワクチンは100%の予防効果があるわけではないうえ、ワクチンの効かない感染症もあります。ウイルス感染症から愛猫を守るためには、ワクチンで予防できる感染症はワクチン接種をして予防に努め、さらに避妊・去勢と室内飼育の徹底を図ることが大切といえます。
ワクチンの種類 | 予防できる病気 | ワクチン接種のタイミング |
3種混合ワクチン | 猫ウイルス性呼吸器感染症、猫カリシウイルス感染症、猫伝染性腸炎(猫汎白血球減少症・猫パルボウイルス感染症:FPV) | 子猫の場合:生後2ヵ月~3ヵ月の間に1回、その後は年1回が基本 成猫の場合:年1回が基本 |
4種混合ワクチン | 上記の3種混合ワクチン+猫白血病ウイルス感染症(FeLV) | |
5種混合ワクチン | 上記の4種混合ワクチン+猫クラミジア感染症 | |
7種混合ワクチン | 上記の5種混合ワクチン+2つの猫カリシウイルス感染症 |
※猫カリシウイルス感染症には3つのタイプがあり、いままでの3種~5種混合ワクチンでは1タイプの猫カリシウイルスにのみ有効だったものが、7種混合ワクチンでは3タイプの猫カリシウイルスに有効となります。
猫のウイルス感染症については、以下をご覧ください。