【症状】性格の変化の後、過剰な興奮、凶暴化。麻痺症状により死亡する
犬の狂犬病の症状は次の3つの期間、すなわち、前駆期、狂躁期、麻痺期に区分されます。前駆期では発熱や食欲不振などの他、普段と異なる行動変化が見られます。例えば、暗い場所に隠れたり、これまで友好的だった犬が近寄らなくなったり、逆に攻撃的だった犬が従順になったりします。その後、狂躁期(狂躁型)か麻痺期(麻痺型)に移行します。狂躁型では過剰な興奮性を呈し、異物(糞や小枝、小石など)をむやみに食べたり、吠えたり攻撃したり、目の前にあるものすべてに(生き物だけでなく無生物にも)噛み付いたりと、まさしく狂犬の症状を示します。また、顔も凶暴な様相に変化します。
この狂躁症状は2~4日ほど続いた後、運動失調や痙攣、嚥下困難、昏睡などの麻痺症状を呈し1~2日で死亡します。麻痺型では初期から急激に進行する麻痺症状がみられ、数日で昏睡に至り死亡します。狂犬病感染では狂躁型が80~85%で、この時期に犬の攻撃性が強くなり咬傷事故(咬傷感染)が多発することになります。
【原因】感染動物に咬まれ、狂犬病ウイルスに感染することが原因
狂犬病は、狂犬病ウイルスの感染によって発症します。狂犬病ウイルスは、感染した動物の唾液中に大量に存在するため、感染動物に咬まれると咬み傷からウイルスが体内に侵入し感染してしまいます。ウイルスは咬傷部位から末梢の神経や中枢神経、すなわち脳・脊髄へと広がり、末梢神経障害や脳炎、脊髄炎などの中枢神経障害を引き起こします。
【治療】発症すれば有効な治療法はない。
狂犬病は犬にとって致命的な病気であり、発症すれば有効な治療法はありません。また、このウイルスは公衆衛生上の危険が著しいため、発症した動物には安楽死が選択されます。万が一、狂犬病に感染した動物、ないし、その疑いのある動物に犬が咬まれた場合は、犬を速やかに動物病院に搬送し、直ちに狂犬病ワクチンを再接種します。そして、厳重な管理下で犬が狂犬病を発症するかどうかの経過観察を行います。ただし、ワクチン未接種の犬では安楽死が勧められることもあります。
【予防】ワクチン接種が有効。年1回の接種を
狂犬病の予防には、ワクチン接種が有効です。狂犬病は、狂犬病予防法によって生後3ヵ月以上の犬に年1回のワクチン接種が義務づけられてもいます。動物輸入によって日本に狂犬病が入ってくるという可能性は常にあるため、年に1回は必ず狂犬病のワクチンを愛犬に接種しましょう。
「犬の狂犬病」のポイント
狂犬病の国内での動物の発症例は昭和32年以降見られないものの、中国や東南アジアでは依然猛威をふるっています。事実、記憶に新しい例として、2006年にはフィリピン滞在中の男性が犬に咬まれ、帰国後に発症して亡くなったケースがあります。また、欧米でも年間数十万人の人が狂犬病の動物に咬まれ、ワクチンやお薬を受けています。
日本は世界でも数少ない狂犬病の清浄国です。これを保つためにも、愛犬にはワクチン接種を必ず受けさせるようにしましょう。