【症状】下痢をする程度で目立った症状は見られない
犬がエキノコックスに感染しても、まれに粘液状の柔らかい便を排泄したり、下痢をしたりする程度で、目立った症状はあまり見られません。これはエキノコックスの病原性が、犬やキツネなどに対しては、かなり低いためです。そのため飼い主が愛犬の感染に気づくのはきわめて困難といえます。
犬が感染後、その体内に入ったエキノコックスは、寄生して1ヵ月ほど経つと卵を産み始めます。以後、エキノコックスは1〜4ヵ月の間、卵を産み続けます。しかし半年ほどすると、エキノコックスの寿命がつきて、体の一部(片節:へんせつ)や成虫そのものが糞便中に排泄されます。その後は、犬がエキノコックスに感染したネズミなどを新たに食べたりしない限り、再感染することはありません。
【原因】エキノコックスと呼ばれる寄生虫に感染して起こる
エキノコックス症は、エキノコックスと呼ばれる寄生虫(お腹の虫)に感染して起こる病気です。
エキノコックスは、犬やキツネといった肉食獣の小腸に寄生する条虫(いわゆる、サナダムシ)の一種ですが、一般的なサナダムシに比べてとても小さく、体長は約1.5〜4.5mm。肉食動物を終宿主(寄生虫が成虫まで成長して虫卵を産むのに適した宿主)にし、ネズミやリスなどを中間宿主(寄生虫が終宿おもに感染できる段階まで成長するために必要な宿主のこと)とする寄生虫です。このエキノコックスに感染しているネズミなどを犬が捕食すると、犬はエキノコックスに感染します。しかし、犬がエキノコックスの虫卵を直接口にしても感染することはありません。
エキノコックス症の原因となる寄生虫には多包条虫と単包条虫とがあり、どちらも世界的に広く分布していますが、日本では北海道で多包条虫が多く確認されています。ただ、近年、ペットの移動の増加にともなって、関東地方の飼い犬にも寄生が確認されている、といったことなどから、エキノコックスの流行地域拡大が懸念されています。
【治療】成虫に対しては駆除薬が有効
エキノコックスの成虫に対しては、プラジクアンテルという薬剤の含まれた駆除薬で、ほぼ100%駆虫することができます。
【予防】流行地域では犬の放し飼いを控える
エキノコックスの流行地域では、中間宿主であるネズミの捕食を避けるため、犬の放し飼いは控えましょう。また、定期的な糞便検査を行い、感染していたらすぐ駆虫が行えるようにしましょう。
「犬のエキノコックス症(多包条虫症)」のポイント
もしも流行地域で、飼い犬がネズミを捕まえ、食べているのを見かけた場合は、飼い犬のことは動物病院に、飼い主さんは保健所などに相談するようにしましょう。