【症状】よだれを流す、嘔吐・下痢、貧血など、原因物質によって異なる
中毒の症状は、原因となる物質や食べ物によって異なります。流涎(りゅうぜん:よだれを流すこと)、縮瞳(しゅくどう:瞳孔が縮まること)、震え、運動失調、痙攣(けいれん)発作、高体温といった神経症状をおもに示すものもあれば、嘔吐や下痢、あるいは口腔内のただれといった消化器症状が強く出るもの、出血傾向や可視粘膜の蒼白化、頻脈といった貧血症状を起こすものなどもあり、原因物質によって多種多様です。中毒の原因によっては、腎不全や肝不全に進行するものもあります。
中毒のなかでも害虫駆除剤(有機リン系薬剤)や殺鼠剤(クマリン系薬剤)、ノミ取り首輪(ピレスリン系/ピレスロイド系薬剤)などの化学物質による中毒は要注意です。強力な殺虫剤に含まれる有機リン系薬剤は皮膚からでも吸収され、中毒を起こした場合には流涎や失禁、縮瞳が生じ、震えたり、痙攣を起こしたりし、早急に手当てをしないと命に関わることになります。殺鼠剤に含まれるクマリン系薬剤では止血異常を生じ、いたるところから出血するようになるため、貧血を起こすことがあります。重症例では肺出血などを起こして命に関わることもあります。殺鼠剤で弱ったネズミを猫が捕食することがあるので、外へ行く猫ではとくに注意が必要です。ノミ取り首輪では、犬用を誤って猫用に用いたりすると、その成分に猫が中毒を起こし、よだれを垂らしたりふらついたりするといった症状が見られることがあります。
殺虫剤などの化学物質以外では、観葉植物の誤食による中毒や腐った食べ物での食中毒により、嘔吐や下痢などを生じることがあります。また、普段人間が食べている野菜のうち、タマネギや長ネギなどのネギ類を与えると、赤血球が壊れやすくなって起こる溶血性貧血を起こすことがあります。また、溶血のため、尿の色が赤?褐色や黒色に変化します。
【原因】人用の薬やキャットフードのカビ、観葉植物やネギ類など
中毒は、人用のサプリメントや医薬品類の不適切な投与、腐りかけの魚肉中の細菌やキャットフードに生えたカビの摂取、薬品類や観葉植物などの誤飲・誤食など様々なことが原因となりえます。
例えば、医薬品類では、アセトアミノフェンの含まれる市販の風邪薬を猫に投与すると、胃潰瘍や溶血性貧血を引き起こすことがあります。薬品類では消毒液のクレゾールや殺虫剤(有機リン系、カーバメイト系など多種あり)、台所や洗面所で使う塩素系洗剤や研磨剤、さび取り剤などを使用しているときに猫が近づきすぎ、薬品類が被毛や足の裏につき、それをなめ取ろうとして口に入れたり、皮膚から薬品が吸収されたりして中毒を起こす危険性があります。また、殺鼠剤(クマリン系薬剤)や殺鼠剤を食べたネズミ、ナメクジ駆除剤(メタルアルデヒド)などを猫自ら口にして中毒を起こすこともあります。
また、猫の中には先が尖った葉や枝を口にしてしまうものもいるため、観葉植物や台所に置いてある野菜などをかじって中毒を引き起こすことがあります。猫に中毒を引き起こす植物には、スズランやアジサイ、朝顔、アイリス、ジャガイモの芽などがあります。またネギ類も猫に中毒を起こし、ネギを直接口に入れなくても、その成分が含まれているスキヤキなどの煮汁を摂取するだけで中毒の原因となるので注意が必要です。
猫は犬より注意深いため、犬ほど何でも口に入れてしまうことはありません。しかしグルーミングを行う習性を持つため、体に何らかの中毒物質が付着してしまうと、それをなめて口に入れ、中毒を起こすことがあります。また、遊びざかりの子猫の場合は、薬品類や、毒性のある植物や物質などを誤食してしまうことが成猫より多いので、注意が必要です。
【治療】原因物質を突き止め、その排泄や弱毒化に努める
中毒の治療では、ほとんどの場合、内科療法を中心に行います。治療にあたっては、できるだけ早く原因物質を特定し、中毒物質を猫の体外に何らかの形で排泄させるか、中毒物質の毒性を弱めることが重要で、吐かせたり活性炭を投与したり、胃洗浄を行ったりします。同時に嘔吐や下痢といった消化器症状や脱水症状、痙攣などの神経症状などに応じて対症療法を行います。
【予防】中毒物質はしっかり保管して、猫が接触しないように配慮する
中毒を予防するには、普段から原因となるような薬品、化学物質、植物、食べ物などに猫が接しないよう配慮し、しっかりと保管することが大切です。また、室外での中毒を避けるために、室内飼いにするといいでしょう。また、猫には猫用のものを与えるようにし、安易に犬用のノミ駆除剤や人間用の薬などを与えないようにしましょう。